「阿弖流為」

【ジャラジャラとモコモコでもキレキレ】

 オープニングは、鮮麻呂のしーらんと多久麻のまなつちゃん、そして巫女のみなさんがおごそかに蝦夷にまつわる祭祀を行っています。メインで歌い上げる娘役さんが、中島みゆきに見えて仕方ありません。

 そこへ紀広純のオレキザキがやってきて、蝦夷は許さんと怒り、中島みゆきを斬ってしまいます。スパイとして朝廷に入り込んでいたしーらんは怒りに耐えつつ、蝦夷の若者たちに未来を託します。

 蝦夷の若者の代表、ヒーロー、綾、天飛、音咲を紹介。それぞれ映像で名前がババ―ンと出て、最後にもちろん「阿弖流為だー」。

 舞台中央が割れて、左右にこれ以上ないデカい字で、主演 礼真琴 と表示され、キタキタキタ━(゚∀゚)━!と、興奮もMAXに。後ろ姿の阿弖流為がゆっくりと振り向く、この「オレが主役だ!どうだーこれでもかー」な演出大好き! 

お客さんの拍手とともに前に出てきて、みんなと一緒に爆踊りしますが、これが若さ全開で「エネルギー持て余して、いてもたってもいられねえぜ、早くオレを暴れさせろおおお」みたいな地団駄踏むような振付まで入り、細かくて速いダンスは0.1秒ですら目が離せない。それでも琴ちゃんは一つひとつの動きが決まってて、振りが「流れる」ということがありません。ないどころか、身体の全関節から指先まで神経が行き届いているので、どこでポーズボタンを押してもカッコイイ! 

 ルックスも最高に素敵です。腰まで伸びた長い髪の一部を高く結い上げ、エクステやら、色とりどりの珠やら、カラフルな色のヒモ巻いてたり、顔の横にシケがあったり、とにかくいろんなものがジャラジャラつきまくってるのですが、これがめちゃめちゃカッコいい。私、男役のポニーテールが何よりも大好物なんです。

 民族衣装も生地が分厚そうなうえ、いっぱい着こんでる感じで、みるからに動きにくそう。でも琴ちゃんはそんなこと一切おかまいなしにキレキレダンスを踊ります。モコモコしてるのに俊敏で、ジャラジャラヘアも気にしない激しい動きがしびれる。

【若手も語らせてもらう】

みんなを率いて爆踊りしたあとに、実力を見せつけるかのように「♪このぉ身に、ながぁれる、血しぃおが、オレにぃ言うっ」などと熱唱します。冷静に聞くとなかなか微妙な蝦夷軍団のコーラスも、それまでの琴ちゃんのダンスと熱唱に圧倒された観客の耳にはもはや届きません。

ジャンジャン!と終わって、理想的な登場の仕方に大満足しました。

しかし、個人的には冒頭のしーらんのシーンが長すぎる気がしました。「蝦夷が朝廷に虐げられてること」「きっかけとなった鮮麻呂の謀反」というキーワードをここで印象付けたのでしょうが、私ならオープニングは絶対、阿弖流為と田村麻呂の出会いのシーンにします。

田村麻呂はせおっちそのままで、子どもの阿弖流為を誰か若手にさせて、無謀な競争を挑み転げ落ちた阿弖流為を田村麻呂が助けるあのエピソードです。「こいつは大物になる」みたいな語りをせおっちにさせて、りりしく成長した阿弖流為登場! 

ここから琴ちゃんに「蝦夷の頭脳・母礼」「幼い頃から一緒だ・伊佐西古」とかなんとか一人ずつ紹介させ、合流してあのオープニングに流れます。

こうすれば“田村麻呂が特別な人”で、“阿弖流為が一直線な性格”であることが一発で理解してもらえると思うんだけどなあ。

暗転して、伊治城下。みすぼらしい蝦夷のみなさんが虐げられながら暮らす中、中島みゆきが辛い日々を歌う。それを眺めつつオレキザキや夏樹さんが「蝦夷は人ではないからのう、鮮麻呂もかつてはそうだったのになニヤニヤ。もう戻りたくはないであろうホッホッホ」しーらん「もう少しの辛抱だ。〇年の月日を耐えた私の想いを果たせる時がくる。あとは頼むぞ、阿弖流為」まなつ「鮮麻呂さまっ…」みたいな感じでええ。祭祀とかいらんねん。

そしたらこれで「蝦夷の民が辛酸をなめていること」も「しーらんが蝦夷から朝廷に寝返ってたこと」も「それは謀反のためだということ」も一発で理解してもらえるし、蝦夷の若者たちのとこに説明に来なくても済む。原作では鮮麻呂が一切登場しないことでカリスマ性を高めていたので、ちょっと出過ぎかなあと…。悪いがしーらんとオレキザキのソロも削除で。しーらんが一樹千尋さんで、オレキザキが輝月ゆうまなら歌ってもいい。

伊佐西古は阿弖流為の幼馴染で陽気キャラ。琴ちゃんが甘えられるヒーローにピッタリです。もともと専科風おじさんになるかと思われましたが、タソほどの貫禄もなく、まだ若々しいので、こういう役が今は一番ハマってるようでした。

 諸絞は音咲。阿弖流為をねたんで反発気味です。元の声がいいので、セリフが聞き取りやすい。ものすごく小さいことに驚きましたし、顔も可愛いのでいい娘役さんになるとは思いますが、歌える男役が貴重な星組で、もったいないことこのうえない。おかげで、大輝真琴と混同することがなくなりますが。

 阿奴志己は天飛さんというものすごく若い人。雪組っぽい顔で、目力が怖いほどに強い。メインメンバーをそつなくこなし、フィナーレのダンスシーンで一瞬でも芯をとったのには驚きました。願わくば、この役をえりちゃんにやってほしかったです。暑苦しいですか。

 蝦夷を裏切ろうとして捕まった飛良手は天華さん。まだ顔が丸いですなあ。メイクや髪型をもう少し工夫してもいいかも。そして表情の作り方があまり美しくない。泣く時ももうちょっとキリッとしたまま泣いてほしい。阿弖流為の弟子みたいな大きな存在なので、もっと頑張れ。でも琴ちゃんもちょっと前までは感情に流されすぎて、泣く時の表情は汚かったので、天華さんも大丈夫だ(なんの励まし)

 多久麻のまなつちゃんがいい。しーらんに仕える姿やその後のふるまいがとっても上品で目を引きました。今までまなつちゃんにあまり注目したことなかったのですが、ちょっとトキめいてしまったほど! 当初、阿奴志己くらいやらせたれよと思いましたが、合ってたので多久麻で良かったと思います。

 阿弖流為は飛良手を許し、みんなと立ち上がろうとさわやかな明るい主題歌が始まります。どんなに涙をこぼしても、まったく揺れない歌唱。さすがです。

 背後のスクリーンに大空が広がって、これは感動せずにはいられない。ワクワクするメロディと、肺活量の検査並みに全身を使って歌う琴ちゃんの熱唱。こういうのを待ってたんです! さわやかなのに泣けてくる。最高です。

「♪平原を行く狼、空を飛ぶ鷲のごとく」

そうそう、今のアンタ、まさにそんな感じだよ、琴ちゃん!

「♪希望をいだけるーー場所へーーー」と伸ばしに伸ばした美声は、2階の一番奥の壁のミクロンな穴まで沁みわたり、新しい青年館もさぞ喜んでるに違いありません。

 戦闘のシーンでは殺陣も披露します。桜華に舞えの特訓も効いたのか、みなさん素晴らしい。琴ちゃんの歌でみんなが歌い終わった後に、弓矢で火を放ち(映像が効果的です)「母礼、伊佐西古、来るぞ」と、構えるポーズが超絶かっこいいいいいい。

そして、琴ちゃんがスクリーンの敵と戦うのは、流行りのプロジェクションマッピングみたいです。本人は映像が見えてなくて、毎公演ごとに録画を見てちゃんと絵と合ってたかチェックするそうですが、いつも完璧でした。すごい。

【ラブシーンの数十秒にもこだわる】

 黒石を訪れる琴ちゃん。「長が現れなかったことがやはり気になる。礼を尽くしておきたい」などの何気ないセリフ回しがとってもステキ(なんでもステキ)

 ところで、このセリフの言い回し、東京でものすごく変化してたことに驚きました。「何気ないセリフ回しですよ」っていう「演技」が「何気ないセリフそのもの」に代わってたんです。演技の研鑽をこんなところで感じて、大変衝撃でした。

 謎のスライドドアから佳奈役のくらっち登場。雪組時代、魔女っぽい感じが苦手だったのですが、星組に来たらなぜかものすごく愛らしく見えだした不思議。スカピンのマリーは本当に可愛かった。琴ちゃんとサイズ的にもぴったりだし、なにより実力がある。芯の強い佳奈を自然に演じていて、とても良かったと思います。

 

 母礼には綾さん。原作では超重要な役で、いったい誰がやるのか最大の注目になったほどでしたが、そつなくこなしていたのではないでしょうか。きれいな人なのに、いつもメイクがイマイチです。目元がしーらんぽいっというか、マスカラがダマになってる感じというか。琴ちゃんみたいに切れ長メイクにしたらもっと美しくなれそう。阿弖流為が頭の上がらない人らしく、さらに重厚感を出していきましょう。

 天鈴にはクリスティーナちゃん。顔がとうこちゃんそっくりです。新人公演とかでも年配の役をふられるので、そういう路線で育てるのでしょうか。その期待にちゃんと応えていました。

 菟穂名役のじゅりちゃんが殺され、送り火を見るくらっちの歌がいい。そこにやってくる阿弖流為。祭りの前までは「私は」「佳奈どの」と丁寧な口調だったのに、祭りのトラブルを経たせいか、「オレは」「佳奈」とかワイルドになってタメ口だし呼び捨てだし。いきなり距離を縮めてきたな、オイ。

 くらっちが駆け寄って琴ちゃんが持ち上げる話題の高い高い抱っこですが、あれ、かゆいところに手が届かない感じなんだけど、ちょっと安易な運動会の組体操も思い出すし、ふつうに抱き合うのじゃダメだったんでしょうか。

でもキスしようとするとくらっちは逃げちゃうし、ゆっくり恋人握りするだけなんて、もどかしくて奥ゆかしくていいじゃないですかぁ(どっちやねん)

 

  これが恋人握り➡

  ソフトな接近戦が

  紳士な阿弖流為氏

そんでその恋人握りがぎゅっと全指合わさった

瞬間に、琴ちゃんがその手を強引にグイッと

引き寄せ自分の腰にまわし、左手を

くらっちのウエストに添えて顔を近づける

キィィィーーーーーーーーーー(大絶叫)

 ここでやっとキスかと思いきや、

後ろから悪い人々がドーンと。

夏樹さんの不穏な宣言を聞きながら、

顔を斜め右上に「キッ」とあげるのが  ➡➡➡➡

もおぉぉぉーーーーイケメンーーーー(大絶叫)

迫る危機からくらっちを守ろうと、両手を広げ前に立ちはだかる琴ちゃん。

こんなふうに守られたら、後ろから槍で刺されても本望でしょう。

クリスティーナがくらっちを引きはがしにきたら、仲間とまた爆踊りです。

このときのダンスが、弓矢を放つなど戦う振りから、民謡チックな振りに入るのがめちゃめちゃツボる。この力強い決めポーズ、本場四国で阿波踊りをさせても、徳島市長の隣でメインスターとして踊れること間違いなしです。

両手をあげてターンする手の軌道が、琴ちゃんだけ全然違う。みんなはただ回ってるだけなのに、琴ちゃんはきれいな八の字を描いているし、顔の動きも一人だけフィギアの選手みたいに遅れてくるっとスピーディーに回るのです。このように、みんなと同じ動きでも、琴ちゃんは人より多く、一つひとつの音符に振りが入り、かつ、いちいちビシッと決まるので、明らかにカッコよさのレベルがステージ違い。

速い振付であればあるほど、普通の人はただついていくだけで必死になり、一つ一つの動きを表現するまでに至らないのですが、それを全部表現しきれてしまうのが琴ちゃんのすごいところなの。そんなダンスがたっぷりみられるだけでも、この公演は大成功だと思いました。

最後はササササと忍びのものみたいに

駆け寄るくらっちを琴ちゃんが左腕で抱き寄せ、

くらっちは琴ちゃんの首元に顔をうずめます。

琴ちゃんはいつもバッチリ香水をつけてて、

通り過ぎる風圧だけでいい香りがするのですが、

くらっちも鼻の穴広げて「いい匂いするわ~」

と思ってんだろうか。

そしてまた顔を右上にあげて

「カッ」とキメ顔でポーズ。

それも音楽のジャンッの締め音より一つ速い。

右手はだらんとおろしたままで、

決めきってないところも憎い。

そしてイケメン!!!!!!!!    ➡➡➡➡➡

いちいちステキ―――――――(大絶叫)

わずか数十秒の振付でもこんだけ楽しめる自分、最高です☆

【若手のズコボエをなかったことにするマジック】

2幕は、黒と白の衣装に着替えました。可愛いファーのケープも着て、ますます動きにくそう。ポニーテールに羽なんか刺しちゃってお洒落さん☆

ここでもあのさわやかなテーマソングです。

田村麻呂のせおっちもめちゃくちゃハマり役だと思いました。ルックスがまず完璧。せおっちといえば、鈴蘭での悪オヤジが最高でした。アルマンも良かったのですが、ガイズのスカイみたいな役よりも、こういう渋めの役が一番似合うと思います。琴ちゃんの相手役として対等な感じがとても良かった。

この無益な戦いを終わらせるために、阿弖流為は自分が犠牲になる策を提案するのですが、いきなり感が否めなくて、ついていくのにちょっと戸惑います。

いきなりみんなに説明するのではなく、阿弖流為が川辺かどこかで独り、もしくは母礼に問わず語りするシーンを挟めばよかったかもしれません。「今まで少ない人数ながら奇策をもって連戦連勝してきたこと」「でも無限に兵を増やす朝廷と争っても終わりがないこと」を端的に説明して、「オレは蝦夷の未来を守りたい…」みたいなソロを歌うのです。それからみんなに合流したほうが、入ってきやすいのではないかしら。

それでもみんなが泣きながら賛同するのは感動のシーンになりました。ヒーローの熱演が涙を誘います。

しかし一人ずつソロで歌うのが、なかなかに微妙です(笑)琴ちゃんが一人で歌うシーンのバックコーラスも実はヤバいのですが、いずれも客の98%はそれに気づいていないでしょう。最後にまとめる琴ちゃんがあまりにもエエ声かつ超絶技巧の力技で、すべてを帳消しにしてしまうからです。

「♪オレたちは誇りを胸に抱き続けた、その日々はけして忘れない♪」を、ものすごい高音でハモッてて、美しいコーラスになってるものだから、なんかもうとてつもなく歌うま軍団かと錯覚せずにはいられない。ラスボスがズコボエ特集を結果的に名シーンに変える“STARS11再び”のマジックです。

締めは綾さんが一緒に最期を迎えると告げる感動のシーンなのですが、キメ台詞「死ぬ日は同じと決めていた」が、滑舌悪くて何言ってるか聞こえない、残念。

田村麻呂と阿弖流為の一騎打ちシーン。ここの見どころは、琴ちゃんのイナバウアーかマトリックスか! すごい身体能力に驚きますが、あまりにもさりげにやってるので、いかにこれがすごいか気づくのさえ難しい。

田村麻呂に降伏シーンで、諸絞が自分の顔を焼いてでも阿弖流為と一緒に戦う目玉エピソードもぶちこんでいるのですが、ちょっと唐突。もったいない。

処刑を前にした3人語りもいいし、処刑された2人の首を見届けにやってきた飛良手のシーンは絶対はずせなかったので、入ってて嬉しかったです。

阿弖流為の息子に、田村麻呂が胸を殴られるオリジナルシーンもなかなかいい演出でした。

フィナーレは、せおっちたちの棒ダンスから、客席から琴ちゃんが歌いつつやってきて、ひとり踊るのが、どこまでもニーズにこたえてくれてありがとう。くるくるくるくるまわって可愛いのなんの、オルゴールの人形かっつーの! 一度、同期のちゃぴちゃんと二人でくるくる大会してほしい。

そしてみんなとグループ分けダンス。もう、欲しい振付が全部入ってる!

ずっと見たかった振付を全特集して最上級にカッコよく踊る。こんな満たされた気持ちになっていいのかと不安にさえなってきます。

デュエットダンスもくらっちと若々しさいっぱいでステキです。リフトなんか楽々で、永遠に回し続けられそう。

【舞台に命を賭ける姿に私も賭ける】

技術は裏切らない。

これはもう、私が好きになるスターの絶対的条件です。一般人にありえない美しさもいいのですが、それだけで舞台のリピートは難しい。顔にうっとりしても、それ以上でもそれ以下にもならないからです。

でも技術は違う。実力で酔わせる魅力に限界はありません。

成長過程で満足のいく作品に当たること自体が難しい宝塚において(失礼)、過去2作があんまりだっただけに、阿弖流為は本当に良かった…。

琴ちゃんには常に高いプライドとエナジーを感じます。

「舞台に生き、舞台で死にたい」くらいの“集中力”と“プロ根性”。だからこそ、私はお金と時間を費やしてでも見たいと思うのです。

でも今すでに、なんでもできるわけじゃない。ロマンチックレビューも、クラシックな黒燕尾もまだまだこれから。尊敬するという柚希礼音さまより、もっともっと大きな“役者”になってほしい!

弱冠研9、まだ見ぬ未来はますます輝いています。

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