『また、同じ夢を見ていた』  住野よる

【あらすじ】

 小柳奈ノ花はとても賢かった。自分以外はみんな馬鹿だと考える、「人生とは」が口癖のおませな小学生だ。そんな様子だから、学校に友達はいない。それでも彼女は平気だった。外に大切な友達がいたから。両親は仕事が忙しく、夕飯時まで帰らないので、放課後は決まって外に出かけた。どこからともなく現れる、しっぽのちぎれた黒猫とともに、その大切な友達に会いに行く。クリーム色のアパートに住む「アバズレさん」はカッコいい大人の女性で、木の家に住む優しい「おばあちゃん」の作るマドレーヌはとっても美味しい。そして廃墟で出会った手首に傷のある女子高生「南さん」はぶっきらぼうだけど、彼女の書く小説は感動的に面白い。心から尊敬できるそんな3人といろんな話をする時間が、菜ノ花は大好きだった。

 ある日、国語の授業で『幸せとは何か』を隣の席の子と話し合う授業が始まった。隣は霧生君という男の子。絵を描く素敵な趣味があるのに頑なに見せてはくれないし、心を開いてもくれない。ある日、奈ノ花は、両親から楽しみにしていた授業参観に仕事で行けなくなったことを告げられ、激昂して大喧嘩してしまう。翌日、その話を南さんにすると、いつもは無感情の南さんの様子が一変し……。

【感想】

 『君の膵臓をたべたい』で鮮烈なデビューをした、住野よるさんの2作目です。私は先にこちらから読みました。若い子がいろんな人と出会い、模索しながら成長する青春小説ですが、ファンタジーテイストもあって、読後の余韻がソーダ水の中に青空、みたいなさわやかさがくすぐったくて、住野よるさんが男性だったことが少し意外でした。なんとなく女性だと思いこんでしまっていました。

 今さら若者の話なんてと、当初あまり気乗りしませんでしたが、最近は青春小説の面白さに目覚め始めています。甘酸っぱい炭酸って、やっぱり美味しいです。

 奈ノ花の若さゆえの理論や正義感、おませ具合は、少々気が強めの女子ならば身に覚えがあるかもしれません。私も勝気な方だったので、幼稚な男子に正論で追い詰めていくあたり、爽快な気分にさえなりました。でも同時に、大人になった今は、彼女の未来を憂う気持ちもわき、複雑な共感を覚えて、ちょっとハラハラしてしまいます。そんな彼女を導くように、3人の大人の女性がそれぞれの語り方で、様々な事件で悩む奈ノ花の話に耳を傾ける様子が、カタチは違えど、無性にやさしいのです。そして次第に、そのやさしさに癒されているのは奈ノ花だけでなく、3人のお姉様もなんだと気づいていくほどに、面白さは増していきます。ただ生真面目で説教臭そうな話ではない秘密は、物語のあちこちに伏線として隠されていることでした。それがラストに近づくにつれ一気に回収されていく…。最後に残った余韻が甘酸っぱい炭酸みたいなさわやかさで、胸の奥底がジーンと沁みる面白さ。★4つでした。

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