『王家に捧ぐ歌』

中日はもちろん、退団後外部公演までおっかけたとうこファンの私が、いかにこの作品を好きかは過去にしつこく語っておりますので、興味のある方はお知らせください。

 世間でトンチキと評価されていることが不思議でならない名曲の数々を、琴ちゃんの美声で聞けるとか、それはもう見る前から感動の嵐でしょう。問題は金ピカ将軍スタイルですが、ずんちゃんが似合っていたので問題ないはずと思っていたら・・・現実は人々の想像をはるか上を行くとんでもないことになっていたのです。

 コロナの影響で初日の幕が開いたのは10日遅れの17日。私に行かない選択肢などなく、チケ流でゲットして、ひのとりに飛び乗れば、現地の友達が改札まで迎えに来てくれていました。懐かしくランチを楽しみ、御園座まで送ってもらって、いざ観劇です。

 御園座は驚くほど赤い。博多座のウッディ感も素敵ですが、相撲文字が似合う奇抜な装いは、ザ・和物劇場で非常に情緒があり、遠征感を高めてくれました。

いよいよ始まる、待ちに待った王家です! 

今回は御園座の舞台の小ささから、装置の縮小化を余儀なくされ、それに伴い衣装も大幅に刷新されたとのこと。刷新されすぎとも言われていましたが―――。

上手から登場したのは・・・トート閣下? 完全に、昇天時のトート閣下ですやん。

さっそくよけいな感情に支配されながら物語は始まりました。

【エジプト軍】

エジプト軍の衣装は真っ白で、頭巾が白と黒のストライプ。これが不思議と違和感がありません。しかしさわやかすぎて、オラオラな栄華感とか、エチオピアを痛めつける残忍さは出にくかったかも。琴ちゃんは最初、皆と同じストライプ頭巾をかぶってました。可愛い♪

ファラオにはまりんさん。素晴らしいっ。まりんさんってオサファンの私には愛する組子ちゃんでしたが、当時は歌も演技もそこまで上手い印象はなかったのに、専科に行って飛躍的に深まりました。もう宝塚の至宝と言っても過言ではないと思います。

【エチオピア側】

極美・ヒーロー・さりおの3人がライダース。バンダナなびかせ革ジャンとか着て、ナナハン転がし、日本海側の道の駅とかでブイブイ言わせてそう。その他エチオピアの男たちは、極美らがツーリングで訪れる民芸の町にいる染物アーチストで、女たちはMISIA。

極美は美しい顔面とブイブイライダースのせいで、屈折感とか狂気とかあんまないかな。ヒーローは常に強そうで、一人で白いエジプト兵5~6人簡単に倒せそう。さりお役がアイーダに土下座するシーンが好きなので、もっとがんばれさりお。

【アムネリス様】

 最強アムネリス様爆誕。クレオパトラ調つり上げアイラインも高貴で美しい。抜群の歌唱力を響かせ「そーれーはっ、ファラオのむーすーめだからっ」と歌い上げる高飛車さ、たまりません。しかもくらっちは一時期、琴ちゃんの相手役になるのかと言われた時期もありましたので、そんなリアルを重ねると余計に盛り上がります。わき肉のムチムチさ加減もたまらない。くらっちはそれこそ、ちゃぴ退団後のたまちゃん後妻で良かったのではと思うほど、旬を逸した感がなくもないですが、今の特殊な役あれこれがあまりに素晴らしいので、マニア的にはありがたい気持ちでいっぱいです。

【アイーダ】

 初日だからか緊張が勝ちすぎて、見ててしんどかったです。

 しかし先日、前楽の配信を観ましたが、ものすごく進化していることに驚きました。お芝居のやりとりの魂の入り方が明らかに変わっていたのです。なこちゃんはいつも公演中にぐんぐん成長するのが本当にすごい。だんだんリラックスしていくのもあるだろうけど、「優しくて超スパルタ礼真琴」にバッキバキにシバかれながら、でも決してくじけず、泣きながらついていくド根性・舞空瞳が目に浮かぶ。「アイーダの決心」のソロはまだ完全とは言えないかもしれませんが、セリフが歌になっている部分はもう十分ではないかと思うのです。A4用紙10枚に及ぶなこちゃん賛歌、まだ書けてない、くやしい。

いよいよ本文です。

今回の琴ちゃんの衣装が大胆にリニューアルされています。従来の金ピカ衣装がカッコよかったかと言われたらそれもアレですが、今回の午前1時のドンキからタイムスリップしてきた姿は、どうがんばっても流せない。背中の太陽とヘビだけでなく、左足のブーツに2個ついたモフモフ猫じゃらしも気になる。ラダメスは猫を飼っているのか。後ろの白いエジプト兵が割とまっとうに兵っぽいだけに、余計に違和感が否めない。みんなと一緒にストライプ頭巾かぶってる時は「可愛い!好き」ってキュン死するのに、ドンキ野郎になったとたん「え、誰?」と困惑を隠せない私。どうしてくれるの、まったく!(注:他人の琴批判は許しません)

 

 琴ちゃんは一発目の大ナンバー『エジプトは領地を広げている』を熱唱します。

♪勝利を祝うのは私だ 私だ わーたーしーだあーーーーーー 

みょうちくりんな衣装きせやがってえええ!!!というストレスを発散するかのような、御園座の壁もひび割れんばかりの大音声に、はやくもルックスはどうでもよくなりました。

 この作品は歌が多く、海外ミュージカルを思わせるほど。特に、序盤にいきなりある、ラダメス・アイーダ・アムネリスの3人が歌のバトルを繰り広げるシーンは10分以上もあり、ドラマチックなメロディーラインに、重要な歌詞がこれでもかと込められています。ラダメスとアイーダが「戦いに意味はあるのか」とかけあう歌から始まり、アムネリスが合流し、ラダメスの思い、アイーダの葛藤、アムネリスの不安が高まりながら、壮大なナイルの流れのごとく美しいコーラスが重なり、怒涛のように押し流されていく…迫力満点かつ最大の見せ場にさっそく感動の嵐です。

 これまでラダメスって「おおらかな愛すべき単純おバカ」なイメージでした。初代わたるちゃんにすっごくはまっていて、非常にいとおしいキャラだったんです。「エジプトの将軍になってうれしいイエイ!アイーダちゃんのエチオピアも解放しちゃうよ、そんな怖い顔しないで~愛してるぜ~」みたいなご陽気な感じがとうこちゃんをイラつかせてて、それがまた良かった。

 まあさまは全然単純おバカではないけど、おおらかで優しくて上品で、アフリカ大陸なのになぜか北欧調ラダメスで、これはこれでまた良かった。

 しかし、琴ちゃんラダメスは最初から最後まで深刻で真面目です。エジプトの将軍になりたいことも、アイーダを情熱的に愛したことも、戦いの意味を考えたことも、今はまだ誰も信じてくれないけど平和の実現はきっと可能なんだと訴えることも、なんかもうとっても真剣でシリアスです。思慮深ささえ感じられ、アイーダを愛したことへの決意というか意思というか、非常に強く理性的。恋におぼれて情熱的に逃げようと考え、秘密をしゃべっちゃうのも、なんかすっごい緻密な計画に見えてしまう。“後先考えないアホ感”が感じられないのに、それでも十分、大泣きしてしまう『月の満ちるころ』。宝塚の数あるラブシーンの中でも名場面ベスト5には必ずランクイン間違いなしです。

 名作ミュージカルにはおなじみであるように、後世に歌われ続ける名曲があり、1幕終わりの『世界に求む』もその一つでしょう。熱唱指数100%ですし、この曲を琴ちゃんで聞けたことでも大満足でした。

そんな中、ひときわ異彩を放つのが、この物語の最重要人物アモナスロです。

過去に演じた一樹千尋様に対抗するのは、エロ将軍からピーターまで、驚異のふり幅を持つオレキザキ以外にはいないでしょう。コーラスガールNATSUやITSUKI、YUNAをはべらし、渋谷のナイトシーンでYOYO―!みたいなオシャレな衣装を着たカリスマミュージシャンAMONASURO☆、今回も熱演です。

アモナスロはアイーダにとっては血をわけた父ですが、ただひたすら欲望に狂わされた本物の外道男でした。なのにアイーダは命をかけた恋をしても、父と娘は離れられないさだめとずっと歌ってたくらい(ラダメスに対して歌う背景にアモナスロが出てくる場面は泣けるポイントです)、結局、見捨てることができず、それが悲劇につながったという、ほんまもうやりきれないし悔しい!!!!そういうイラつきが作品の面白さにもつながっていると思うのです。

そして「月の満ちるころ」で、泣きに泣く。

井上陽水の歌に似た三度目の銅鑼の曲とか、ハラハラさせる展開とか、もちろんラストの暗闇で出会うシーンも泣きに泣く、ラストも泣きに泣く。

面白くて仕方がないっっっ!!!!

『王家に捧ぐ歌』名作です。

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