すばらしかった……私の見たい琴ちゃんがすべて詰まっている公演でした。
ずんちゃん、オサさま、とうこちゃん、みっさま。通り過ぎて行った愛する人たちは全員歌うまですが、個性はそれぞれ。皆さま、私の“その時に求める像”を見事に叶えてくださっていましたが、琴ちゃんもまさにその夢を果たしてくださいました。
クラシックな男役が好きでしたが、ロックも捨てがたい自分にとって、宝塚の人はポップスが苦手なのが長年惜しいと思う点でした。TCAやコンサートでどんなにリズムに乗っても、なぜか皆、まったりしている。決して両立はしないものだと思っていたところへ、彗星のごとく現れた礼真琴。ベンヴォーリオで踊る姿がなんか違う。この異色な存在はあとで温めておこうと――――。
『ロックオペラモーツァルト』を会でたった1枚しかもらえなかった悲しい過去から覚悟していましたが、今回はなんとDC4回、青年館2回頼んで全部とりついでもらえました。年月は重ねるものです。まず初見は舞台稽古から。渾身の春矢フェアウェルを済ませ、翌朝早朝から息子の新居の下見もして、そのままキャリーゴロゴロしてドラマシティへ向かいました。奇しくも猫丸最後の仕事が琴ちゃんなんて、運命を感じずにはいられない。
≪ありちゃん修行中≫
ありちゃんの子分ルージュとノワールが、さりおときさちん。ロミジュリの愛と死みたいな存在で、非常にいい効果を生み出していました。インパクトある髪型とメイクで外見も作りこみ、星組きってのダンサー2人がこれでもかとドラマチックに場面を盛り上げます。
≪最初のナンバーで撃沈≫
ルイーズ(くらっち)とレナール町長(ゆりちゃん)夫妻は立派に生きることを目標とする仮面夫婦。成金ヴァルノ(ヒーロー)と夫人(愛子ちゃん)に対抗するため、家庭教師のジュリアン(琴ちゃん)を雇ったことから物語は始まります。
ジュリアンは格差社会に恨みを募らせているので、とにかく根暗。猫背で妙におどおどしていて、うっとおしい前髪の隙間からのぞく陰鬱な目つきが厨二病っぽい。ゴシック風の手帳に尖ったポエム書いてそう。しかし地毛!ちょっと襟足を刈り上げた地毛で、猛烈にイケ散らかしてるではありませんか。黒いロングコートっぽい衣装も映えてて、ビジュアルは100点満点です。
ヒーローに大工の息子とバカにされ、ムッとしたジュリアンは聖書をラテン語で暗唱してみせると、いきなり歌いだすところがこの作品最初の見せ場です。最初の「パ・ブ・ロッ」で突然落雷に撃たれ、思わず叫びそうになりました。洒落たロックに身をゆだねるイケメンと、さっきのキモオタに落差ありすぎて「ちょ、ちょっと待って、一回止めて止めて」と激しく狼狽したんだけど、なぜほかのお客さんは冷静でいられるのか。曲の途中でライトがブルーになり、ルイーズを見つめながらささやくような声で歌うところ、とりあえずあそこでルイーズは4割くらい陥落していたと思う。オンブルたちが曲の盛り上がりで集まってきて、琴ちゃんがキレッキレに踊りながら「知識こそが武器ぃー」とクルッと回転する速度は時速165㎞(佐々木朗希)。アーーーーッ、しびれるカッコイーーーー!このナンバー最高!!琴ちゃんの見たかった魅力が全部詰まってると言っても過言ではないでしょう。どうやら私、フレンチロックがむちゃむちゃ好きなのかもしれません。
≪レナール家の人々≫
レナール町長はゆりちゃん。なぜまゆぽんではなかったのか。1789に出演するので連発になるからかなあ。ゆりちゃんのことは好きですし、レナール町長も良かったのですが、あまりにも優しくてイイ人で、幸せ夫婦にしか見えず、仮面夫婦感は感じにくかったかもしれない。なにより肝心の歌が現実に引き戻され(以下略)。歌詞を聞くと、レナールは怒ることさえ自分の中に秘めてしまわざるを得ない、みたいな人だったようです。
ジュリアンに片思いするメイドはるりはなで、アヒルみたいな衣装がキュート。くらっちとの本格的デュエットを頑張ってます。声がアニメチックで可愛くて歌唱力もありますが、くらっちと並ぶとまだまだ厳しいか。でも歌って踊れるので、るりはなの活躍はこれからも楽しみです。
主要キャスト以外はオンブルと呼ばれ、メイドや囚人、セットの移動や照明係まで務めています。推しの凰花るりなちゃんは、娘役の長っぽい立場でいつも目立つところにいました。やっぱり顔がうるさいのですが、早くなんらかの形で出てきてほしいです。
≪くらっちの人妻的色気について≫
この作品の成否がかかるのがルイーズ役。くらっち一択の前評判に間違いはありませんでした。これまでアクの強い役をやりすぎて、子どもが3人いる人妻とかもはや余裕。琴ちゃんの3学年下なのに、あふれでる色香は熟しきって、ジュリアンとルイーズには8歳くらいの年齢差が感じられ、作品の趣旨的にもばっちりです。
ルイーズはエリザの想いをジュリアンに伝えますが、ジュリアンは聖職者になる夢があるため彼女の気持ちには答えられないと固辞します。
ジュリアンは基本的に挙動不審で、やたらと「はい、奥様」と連呼する。低音イケボで「奥様」「奥様」としつこく言うのはなんなのか。あれでルイーズの脳が徐々に溶かされていっているに違いない。聖職者と聞かされ、なんとなくショックを受けるルイーズに、ジュリアンは突然ひざまずいて手を取り、目を見つめます。「お話はそれだけでしょうか」って…それは確信犯なの? ルイーズじゃなくても顔青ざめるわ。
≪こと&ありの神演出キタ━━(゚∀゚)━━!!≫
聖職者となってなりあがる野望を持っていたジュリアン。憎いはずだった上流階級のルイーズに惹かれていることに気づき苦悶します。ここで登場するスタイルがヅカ的王道衣装の、日常生活に超不便なたっぷりした袖の白シャツに黒いパンツ、黒いブーツです。このシャツが、とがったデカ襟&フリルで生地がシルク、髪型がウエービーロン毛ならザ・柴田作品なのですが、今回はスタンドカラー&シンプルで生地が綿、そして地毛襟足刈り上げ。これだけで白飯3合くらいいけそう。
そんなジュリアンが雨の中、ルイーズへの想いを“征服する”というゆがんだ形で訴えたのちに始まるナンバーが素晴らしい。さりお&きさちんのダンスを背後に、琴ちゃんの低音イケボのセルフハモリが、より世界観を盛り上げます。そしてオンブルのみなさんが徐々に集まってくると、最後にありちゃんがオールバック&黒手袋&シルバーブラウス&ベストの渋いスタイルで登場。琴ちゃんが自ハモ熱唱を響かせる中、ありちゃんが大股開いてダイナミックにイナバウワーした後、オンブルらを率いて激しい群舞を繰り広げるというこれぞ神演出。これや! ありちゃんが星組に組替えして、これが見たかったんや!!!
≪茶の間を凍らせる琴ちゃん≫
祈りをささげているルイーズの元へやってくるジュリアン。これがもうなんというか、エロい。意を決してる感が半端なくて、雨に濡れてるように見えるのも怖い。そして「ルイーズ」といきなり呼び捨てで距離をつめるとか、日中に「はい、奥様」とか控えてたキモオタの突然の変貌ぶりに激しく困惑する私(ルイーズなりきり)。にもかかわらず拒否られるとあっさり引き下がるのは、もとが純な人だからなのでしょう。しかし、根は純でも素質はあるので、ツボをついてくるのが上手いのも悔しい。
やがて結ばれた後のけだるい曲もイイ。くらっちと向かい合って「戦うこともあらがうこともできはしない♪」っていうところでリズムをとるのが超カッコいい。あの簡単そうに見えてできないリズム感。そこだけGIFにして永遠に見たい。
そして2人は高いところに移動して一瞬の愛をかみしめますが、その際に、この衣装の良さが再びクローズアップされます。シャツの襟が着物の抜き襟っぽくなってて、琴ちゃんの細い首筋と刈り上げと丸い後頭部のラインにイケ散らかす横顔、その作画が完全に岩舘真理子おぉぉ(感涙)。
琴ちゃんはこのところ急速に色気マシマシで、れいちゃんとは違った方向性でタメを張っています。たとえて言うなら、れいちゃんは“薄笑い系”で、琴ちゃんは“真顔系”とでもいうのでしょうか(どんなん)。
かつて「琴ちゃんは大好きやけど、トキめいたら児童福祉法違反で逮捕されるわ」と爆笑していた私もルイーズ並みに困惑しまくりです。今や立っているだけで醸し出すそのエロさは、もはやお茶の間の空気すら凍らせる破壊力。お父さんも無意味に新聞を広げずにはいられません。
≪怒涛の1幕エンディングへ≫
ヒーロー宅の食事会。ありちゃんが最初歌って、途中から琴ちゃんが参加するデュエット対決です。声の相性バッチリなのが聞きごたえありました。
基本は根暗なのに、歌う時だけ突然ドヤ顔ロッカーに変身し、終るとまたキモオタに戻るという、それが定番ジュリアンなのですが、この場面ではルイーズとの秘密を抱えていると思うと、背徳感漂いまくりです。黙って町長とありちゃんの談笑を聞いている際の両手を合わす仕草が、あまりにも何気なさすぎてたまりませんでした(ヅカファンがツボる男役の仕草シリーズ)。
しかし、ジュリアンとルイーズの仲を密告する匿名の手紙が届けられたことで事態は急展開。ルイーズは激昂し、レナールに発言の隙を与えない勢いで、ジュリアンを追い出すよう訴えたのです。
なんちゅうひどい女なのか!と最初は思いましたが、後にして思えば、もちろん保身もあったでしょうが、レナールに裁かれるよりは、給料を渡し、パリで秘書の仕事も紹介もして、ジュリアンを護る道をとっさに選んだのでしょう。しかしジュリアンにそこまで考えが及ぶはずもなく、ひどく傷ついてしまいます。
バラの花びらが果てしなく降ってくる中、絶望を叫ぶジュリアン。自ハモとさりお&きさちん効果がドラマチックに盛り上げる一幕の終わりは、「ロックオペラモーツアルト」に似ていましたが、やはり素晴らしかったです。
とにかくナンバーがどれもいい! 今回、自ハモにこだわったのも、良かったと思います。いや、もうほかの誰も声は重ねられませんて。
≪ツーブロックと目にしびれさせて≫
2人目のヒロイン・マチルダは詩ちゃんです。妖艶な人妻くらっちとは対照的で、若さを生かした生意気なお嬢様という役どころ。くらっち同様小柄なので、並ぶと琴ちゃんがとても大きく見えるのが不思議(不思議言うな)。退屈ソングはノリがよくて、脳内リピート率も高くなります。詩ちゃんはとても可愛くて役もハマっていますが、表情が固くて、豊かな声色ほどは演技力が伝わりにくいのがちと惜しい。しかし歌唱力は高く、特に地声ナンバー&自ハモが聞かせました。
2幕のジュリアンは、家庭教師から公爵の秘書となり、年上の愛する女性に裏切られたせいか、挙動不審な厨二病男子から陰鬱な青年へと成長していました。髪を大人っぽくセットしていることで、サイドを刈り上げたツーブロックであることが判明します。ムキー!
詩ちゃんが父えまさんから、どんな男ならいいのかと問われ「気高い男よ」と言った時に、遠くで琴ちゃんがツーブロックのあたりを手でなであげ、キメ顔をつくるのが見逃せないポイントです。
パリでえまさんの秘書として有能ぶりを発揮していたジュリアン。ヒーロー演じるヴァルノ夫妻はえまさんから金を詐欺ろうとしていましたが、ジュリアンが管理していることを知り地団駄を踏みます。
このヴァルノ夫妻がまたいい味出してます。ヒーローは頼もしいし、なにより愛子ちゃんが演技といい歌唱力といい素晴らしすぎました。ヒロイン路線ではないかもしれませんが、専科に残ってほしいくらいの人材かも。2人の大ナンバーは曲がよくて非常に盛り上がり、謎のカタルシスが得られる場面でした。
それにしてもジュリアンがヒーローを見る、氷のような目がたまりません。ジュリアンは、ヒーローだけでなく、ジェロニモ等あらゆる人々から、陰気だの蔑んでるだの、独特の目つきを指摘されています。今回はまさにその“光を失った目”や“イッちゃった目”“バカにしきった目”など、目の演技がひときわすごくて、一度でいいからあの目で睨まれてみたい(そこ)。
≪フレンチロックの申し子は1789へと向かう≫
マチルドに誘われ、恋仲になってしまうジュリアン。誰か隠れてるんじゃないかと必死になる姿は滑稽にすら見え、やっぱり純な人であることがわかります。そしてジェロニモが繰り出す手紙嫉妬作戦のナンバーも楽しい。白妙なっちゃんを歌わせないという贅沢な使い方で、なっちゃんの可愛さも引き出しています。
父えまさんにマチルドとの仲と騎士への身分を認められ、思わぬ方向から野望をも成し遂げられたジュリアン。しかし、またもやヒーローの陰謀で、ようやくつかんだ愛と幸せを壊されてしまいます。
ジュリアンを摘発する手紙に署名したルイーズの行動は理解できない! 結局、ジュリアンをほかの女性にとられたくなかったってことなんでしょうか。いじらしいといえなくもないけど、非常にむかつく。なのに最後の最後に、ジュリアンはルイーズを愛してると言うではありませんか。マチルドがかわいそうすぎる。
そんなモニョる気持ちを私に抱かせたまま、ジュリアンは死刑台的なところへ行きますが、ジェロニモのセリフのあと、「ありがとう」と言った瞬間に左の目じりからポロリと涙をこぼします。私が見た回は毎回そうだったのですが、琴ちゃんくらいになると涙も自由自在なんでしょうか。人体の不思議です。
再びジェロニモが登場し、客席をいじった後、メインキャストのコーラスがありますが、見事に歌うまがそろってて、いかにこの作品が本気だったかあらためてここで実感します。
そして琴ちゃんとくらっち、詩ちゃんの3人のダンスがあって〆。
フィナーレは琴ちゃんの素声の明るい歌が録音で流れますが、とってもいい曲で、ぜひこれも配信してほしいです。早く買いたい!
とにかく素晴らしい公演でした。猫丸で“フレンチロックの申し子”と書かせていただきましたが、まさにその通りだったと思います。次の「1789」も楽しみで仕方ない。これで琴ちゃんがやりたいことが、ほぼ叶ってしまうのではないかしらと、そこだけが若干心配なのだけれども。
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