配信もBlu-rayもなく、記録に残らないとは、あまりにも切ない。本格的ブロードウェイミュージカルで、琴ちゃんの代表作と言ってもいいくらい名作になっただけに、観られた人が少ないのは本当に残念でした。せめて観劇報告だけは少しでも雰囲気が伝わるように書かせていただこうと思います。
ベースとなった映画『BIG FISH』は、ティム・バートンらしい大人のファンタジーです。父と子の家族愛が描かれていて、おとぎ話のようで現実のお話のような…そんな不思議な世界観をそのままに、舞台用アレンジを加え、歌とダンスでより感動的な作品に仕上げられていました。
主人公エドワード・ブルーム(エディ)を演じる琴ちゃんは、少年・青年・おっさん時代をひとりで演じ切ります。時代はコロコロ変わるので、ほとんど出ずっぱり。カツラと姿勢、声色で目まぐるしく変身しますが、スムーズで違和感がないのはさすがです。
息子ウィルはキワミシン。イケメン青年で憎いほどカッコいい。でもたぬたぬしい顔だちは愛らしくて、琴ちゃんと親子設定がしっくりきています。
【みのもんたで青柳な琴ちゃん】 ★おっさん(現在)時代★
オープニングは現在の父子が川辺で語っているところから。おっさんエディはロマンスグレーで少し猫背ぎみ。動きがスローモーで話し方ものんびりしています。ちょっとジジイすぎて、ネットではみのもんたと言われてました。
エディが川へ来るといつもするのが、石を投げる水切りでした。「7回跳ねると良いことがあるんだ」と繰り出すサイドスローのキレは、阪神・青柳もビックリです。
ここは2人の思い出の地。エディは両手を最大限に広げ「ウィルはここでこんな大きなナマズをつかまえたなあ」とさっそく自慢話を始めます。うんざりしながら「その半分だよ」とたしなめるウィルが、あらたまって切り出した話は「ぼくの結婚式では自分の話をしないでほしい」ということでした。
そう、エディはスーパーウルトラ陽キャで、隙あらば自分の冒険話を盛りに盛って演説するのです。幼い頃こそ瞳を輝かせたウィルでしたが、聡明な子供だっただけにすぐに見切り、以降、父親は“ウザくて恥ずかしい存在”になってしまっていたのでした。
【ミュージカルナンバーで盛り上がる】★青年時代★
――ウィルが幼い頃(茉莉那ふみ)、エディは営業マンで各地を飛び回り、.あまり家には帰らない生活を送っていた。ある夜、帰宅したエディは、寝室でウィルから本を読んでほしいとせがまれるが、「本なんかより本当の話をしよう」と、自分の冒険話を始める。人魚(きさちん)に出会ったこと、漁師(天希ほまれ)に魚を釣る方法を教えたこと、そして、魔女(都ねえさん)に自分の死に方を予言されたことを……。
おっさんエディもご陽気でしたが、青年エディは若さの勢いがある分、さらにウザさ3割増しです。元気・明るさ100%のくるくる変わる表情と、ジャパネットたかたもビックリな立板に水トークが、暑苦しくてとってもキュート。青年エディは今の琴ちゃん等身大ですが、とてもイキイキしていて、それだけでジーンときてしまいました。孤独で繊細な琴ちゃんがあらわになってしまったここ数年、身を削る役作りが追い打ちをかけていましたが、ちゃんと元気を取り戻していて、うれしかったです。
子ウィル演じるおふみちゃんがめっちゃ上手い。本物の男の子みたいで、青年の琴ちゃんと完全に親子です。調子に乗りまくるパパに対して、シラーっとした空気を漂わせながらも、まだ、興味が沸いちゃう子ども心もあり、複雑な心境をうまく演じています。
エディの冒険話から息子へのメッセージを、歌と群舞で一本につなげた場面ですが、ここがブロードウェイミュージカルらしく圧巻です。
『人魚との出会い』
人魚きさちんは本来男役なのに、むちゃくちゃコケティッシュです。エディにキスされて人間になり、白いブーツで足を見せるところの可愛さなんて、そのまま人形にしてキャトルで販売されたら絶対買う。人魚はストーリーには影響せず、その後も物語の途中で時々登場するファンタジックイメキャラです。よって人間になったはずやのに、また人魚に戻っとるやないかい。
『アラバマ・ストンプ(ダンスナンバー)』
次にエディが出会ったのは、魚が釣れずに困った漁師・天希さん。指南するのはおまじない!? 歌ではなく、手足でリズムをとるタップ風で、魚がピョンピョン釣れる不思議なダンスです。一般人には絶対無理な振付なのに、リズムのノリが良すぎて、魚でなくても、観てる自分も体が跳ねてしまいそう。
『ヒーローになれ』
“自分の物語はその手で描け お前もなれヒーローに 愛する人守り抜け”
まだ若いエディが、ウィルに捧げるナンバーは、冒険のような人生を生きている彼が、幼い息子に自分を超えろとメッセージを込めています。希望に満ちたメロディーラインを、琴ちゃんは気持ちよさそうに歌っていて、聞き心地も爽快! エンディングで流れるのがまた涙腺直撃です。
『魔女との出会い』 ★少年時代★
子ウィルにせがまれて、ママに内緒で(不気味な話だからと)、魔女に会った話も披露します。
ここからエディの少年時代が回想します。幼馴染と魔女探しに出かけた少年琴ちゃんは、スタジャンに野球帽がまるでポケモンのサトシ。声も高くて、さっきのみのもんたと同じ人とは思えません。幼馴染のドン・プライス(さきっぽ)とザッキー・プライス(夕陽真輝)は、生涯に渡って登場しますが、さきっぽが顔立ち的にやんちゃな外人少年がよく似合ってて、スリザリンにいそう。夕陽真輝はヘタレ具合が可愛くて、2人ともキャラが立ちまくっていました。
魔女の都ねえさんは、ある意味、星組での立ち位置を確立した感。声量の圧が強すぎて、もう可憐な娘には戻れない。ねえさん中心の大ナンバーもあります。
エディは魔女に水晶で自分の死に方を見せてもらったことで、勇気を身に着け、人生を大きく変えることとなったのでした。
【怒りをこらえるキワミに萌える】
――ウィルとジョセフィーン(星咲希)の結婚式。しゃべりすぎるなと釘を刺されていたにも関わらず、エディはマイクを奪い、空気を読まずに朗々と語ったうえに、ジョセフィーンが妊娠していることまでばらしてしまう。やっぱり父とは理解し合えないと憤るウィルだったが、生まれてくる子供が男の子だと判明すると一転、喜びにあふれた。そんな中、エディが病で余命いくばくもないことを知らされる。ウィルはエディの人生で本当に起きたことを知りたいと訴えると、エディは生まれ故郷アシュトンにいた頃の話を始めるのだった。
ウィルがエディのことを苦々しく思う気持ち、よくわかります。こんな親がおったら、マジで恥ずかしいし、いたたまれません。本当ならキレ散らかしたいところを、親も自分もいい歳だしと、こらえながら怒るキワミの演技、共感できました。
それを引き出す琴ちゃんも同様です。エドワード・ブルームという人物像は終始一貫していて、若い時もジジイになっても、とにかく陽気で口から先に生きてる男。ウィルの目に映るエディの“表の部分”はそこだけなので、無理もありません。しかし、それこそが、やがて知るエディが持つ本当の魅力の“種”でもあったのです。
結婚式でエディがしょーもない演説をして自分でウケ、お客様一同がドン引きする中、妻のサンドラ(愛子ちゃん)とエディの親友の医師ベネット(ひーろー)だけが本気で爆笑していました。どうやら彼の良き理解者2人がエディを増長させていたようです(違)
キワミのソロがあります。しっかり声も出て、音がはずれることもなく、立派に歌い上げています。しかし声質が高めなせいか、感情をうまく乗せ切れていないというか、感動させられるというところまではいかない気がしてちと惜しい。「おおきなこえでげんきにうたえましたby前星1」路線に近づいてきました、ピンチ。
【サーカスで働く】
――アシュトンでの高校時代。エディは学業優秀、スポーツ万能で町中の人気者。ブロンドのジェニー(るりなちゃん)も彼に夢中だった。ある日、街に恐ろしい巨人が現れる事件が起こった。退治すると息巻くドンを制し、エディは巨人を説得すると申し出る。巨人カール(大希)は頭が良く、この姿ではアシュトンに自分の居場所がないと引きこもっているだけとわかったエディは、彼を誘って一緒にこの街を出て、広い世界へ旅立つことを決めた。たどり着いたサーカス小屋で、エディはサンドラ(詩ちゃん)に一目ぼれするが、すぐに見失ってしまう。これこそ運命と感じたエディは、サーカスで働きながら団長(さりお)に数年かけて彼女の情報を教えてもらい、ようやく再会を果たが、時すでに遅し。サンドラはなんと、ドンと婚約していたのだった……。
エディはジジイのカツラを脱ぐと、一瞬で高校生に早変わり。当時の華やかな時代にタイムスリップしました。ハイスクール時代の彼は何をやらせてもスーパースターで、ドンは嫉妬しまくりです。ガールフレンドのジェニーには、推しのるりなちゃんが抜擢で、ちょこっと歌の実力も見せてくれました。エディはリーダーシップと行動力もあるので、争うのではなく話し合いたいと、巨人にも根気よく対話で説得します。
巨人演じる大希は、ズボンに竹馬を仕込んだ身長のインパクトも抜群。雪男みたいな外見含め、男役的には微妙な役柄ですが、一節歌うのがめっちゃ聞かせる! 前から歌唱力の高さには定評がありましたが、あの声の豊かさと伸びは、星組では琴ちゃんの次に上手いと言っても過言ではないかも。『記憶にございません』は、田中圭の役を充てられたことから、かなり期待されてるでしょう。ちょっと気弱っぽいので、そこ克服して、ぜひのし上がってきてほしいです。
サーカス小屋は、みんなが各々パフォーマンスしている楽しいシーン。そんな中、サンドラが友達2人と「アラバマの子羊」というぶりぶりぶりっこな曲を歌って踊ります。この友達の1人は、若ウィルのおふみちゃんが女子に戻っててかわいいです。
若サンドラは詩ちゃんが演じていますが、青い水玉のワンピースでとってもプリティ。エディはズキューンと一目ぼれしてしまいます。でも一瞬すぎて、彼女がどこの誰だかもわかりません。「ただ働きするから彼女のことを教えてほしい」とさりお団長にすがったエディは、3年かけてようやくサンドラという名前と大学名、そして、水仙の花が大好きということを知ったのでした。
団長は毎月1個しか情報を教えてくれない、めんどくさい嫌な男でした。しかし彼には素顔が狼男という秘密があり、意地悪なのは自分を隠しているコンプレックスのせいだったのです。狼になった姿を見ても動じないエディから、犬猫大好き眉間コショコショ技を繰り出され、団長もエディになついちゃった模様。そんな友情から後に漢を見せるシーンもあって、可愛いキャラクターだったというオチもついて心憎い。さりおは演技が本当に上手くて、いろんな役をものにします。
【水仙の花とプロポーズ】
サンドラの居場所がわかったエディは、ヘルメットをかぶってそのまま大砲にもぐりこみ、ドッカーンと飛ばされると、スクリーンには、アメリカアニメみたいに空飛ぶ琴ちゃんの映像が流されます。やがてパリッと正装したエディは、無事、大学のキャンパスへ到着! そして、ようやく恋焦がれたサンドラを発見しますが、彼女はなんとドンと婚約していると言うではありませんか。そこへドンがやってきて、無抵抗のエディをボコボコに…。その様子を見たサンドラは、ドンに別れを告げました。
エディは、サンドラにひざまずいて、プロポーズをしました。
琴ちゃんの甘いラブソング、最高です。何も言うことはありません。
セットは予想通り、途中から水仙の花が満開になっていき、最後は舞台を埋め尽くし、感動の幕が下りました。
~ 一幕終わり ~
2幕
【軍服なのに一番キュートな謎】 ★ 現在~青年時代 ★
―ウィルは、エディがアシュトンでジェニーと家のローンを組んでいたことを知った。すべてのおとぎ話はもう一つの家庭を隠すためだったのではないかと動揺し憤る。ジョセフィーンから、お父さんと戦争するわけじゃないとたしなめられたウィルは、そういえば父の話が全部嘘だと気づいたのは、戦争がきっかけだったと気づく。
戦時中、青年エディは米軍慰問団が華やかなステージを行う最中、パターソン将官の暗殺を、身を挺して助けたことがあると語っていた。子ウィルは「いつの戦争の話だよ」とつっこむが、エディはやっぱりはぐらかす。その後、エディは出張でしばらく家を空けることを、サンドラとウィルに告げに来た。
戦争時代の回想シーン。琴ちゃんは砂色の軍服姿で、サンダーバードみたいな帽子かぶってめっちゃかっこいい! 慰問団は、サンドラ(詩ちゃん)センターにしたロケットのお姉さんたちが歌い踊ります。なぜサンドラが登場するのかというと、あきれながらウィル曰く「パパの話の中ではきれいな女の人はいつだってママなんだよ」。
エディのハチャメチャな活躍で一件落着したあとに、今度はエディをセンターにレビューが始まるのですが、これが軍服姿なのにダルマの娘役ちゃんたちよりも何倍もキュートだったのが謎でした。あれは絶対みんな慄いたと思います。恐るべし礼真琴。
エディは広いアメリカを出張に行く前に、ウィルに
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