『RRR』

『RRR』は世界的に大ヒットしたインド映画で、日本でもいまだ人気衰えず。作品自体のファンも多いため、宝塚で上演が決まった際はかなりのニュースとなりました。

 せっかくなので存分にこの作品を楽しんでいただきたい。そのために、まずおすすめしたいことは…

★先に映画を見ておくこと★ → ネットで見られます

 本当~~に面白いです。インド映画というと、濃い人々がやたら陽気に踊りまくる印象しかありませんでしたが、とんでもない! そのへんのハリウッド映画もびっくりの熱血感動スーパーサスペンスアクションで、3時間という長さをまったく感じさせず、トイレの存在すら忘れさせる。この濃い内容をヅカ1幕の1時間40分にまとめるなんて、絶望必至の超大作です。

しかしそこは近年、希望の星・谷(若)先生演出。幸いにも初日を観ることができましたが、終演後はどよめきと拍手鳴りやまずが評価の高さを物語っていました。

映画を観ていなくても十分楽しめますが、観ていたらその味わいは断然深いものになります。土ぼこりや汗臭そうな空気(失礼)がフローラルな香りに変わり、野生動物やら大爆発などのアクション系もダンスで巧みに表現。宣伝の絵にもなっている目玉シーンも、こう来たか!と表現する“宝塚マジック”の妙味は、元の映画を知っていてこそなので、ぜひ事前に準備しておくことをおすすめします。

【横暴さが似合う人々】

 オープニングは映画と同じ音楽で、パーカッション風のアカペラはオーディションで選ばれたメンバーが歌っているそうです。舞台中央で踊るのは、琴ちゃん(礼真琴)の影WATERRRRのきさちん(希沙薫)とゆりちゃん(水乃ゆり)。2人ともシュッとしていてさわやかでウォーターって感じ。途中から琴ちゃんの開演アナウンスが絡みあうのも見事で、一気にインドの世界へといざないます。

――1920年、大英帝国の植民地だったインド。総督スコット(オレキザキ/輝咲玲央)と妻キャサリン(愛子ちゃん/小桜ほのか)は、森で暮らすゴーンド族の少女マッリ(るりはな/瑠璃花夏)を気に入り、わずかな小銭と引き換えに連れ帰ってしまう。イギリス人の横暴に耐え兼ねた村人たちの声にこたえ、マッリを連れ戻すため、守護神コムラム・ビーム(琴ちゃん)は立ち上がった。

 今回の悪の総元締め・スコット総督は文句なしのオレキザキ。将来、専科行き間違いなしなオヤジ芸の素晴らしさに、ますます磨きがかかっています。スタイルがいいのでイギリス紳士然とした憎々しさが増すのも良い。キャサリン演じる愛子ちゃんもしかり。今回もまた上手すぎて、かつて轟さんがやった一人芝居を観たいくらい。側近エドワード演じるさりお(碧海さりお)が渋い。このところ“嫌な男専科”のスキルがうなぎ上りです。

【琴ちゃん、いろいろ混乱させる】

 ど真ん中に巨大な虎の顔がどーんと現れ、その上に琴ちゃんビーム登場。虎に乗って来たという設定らしいですが、タイガー魔法瓶の昔のマークそっくりです。

 キラキラブラック衣装にポニーテールで華麗にやってきて、WATERのみなさんを率いてキレッキレに踊るのですが、クルクル回転移動する速度は人間ベイブレードだし、デコをも超えて上がる脚はもはや股関節が外れてる。カッコよすぎて何の作品を見てるんだと軽く混乱します。

 そんな琴ちゃんですが、ルックス自体は「キャーうっとり」とかあんまりないです。色黒だし、髪チリチリロン毛だし、ズボンがニッカポッカだし、インドというよりファッショナブル伊賀忍者という感じ。しかし、ビームはとてもチャーミングで魅力的です。超絶優しくて思いやりがあり、勇気があって、誰よりも強く、だけど女性には引っ込み思案で、映画の人と同じく、ジェニーに対してぎこちなく、うなずく仕草がとてもキュートで(以下略)

――ビームはアクタルと名乗り、デリーの修理屋で働いていたが、ある日、仲間のジャング(あまと/天飛華音)がスコット邸へ向かったと聞き、ペッダイヤ(ぴー/天華えま)、ラッチェ(修造娘/稀惺かずと)とともに駆けつける。侵入に失敗したジャングは警官ライアン(大希颯)に暴行を受けていたが、それを止めた貴婦人ジェニー(なこちゃん/舞空瞳)に、ビームは心惹かれてしまうのだった。

 

 琴ちゃんが故郷から一緒にやってきた仲間は、ぴー、あまと、修造娘。ぴーちゃんはまだ分別ありますが、特に修造娘は暴走しすぎて、後にラーマ(ありちゃん/暁千星)につかまってしまう、なかなか目立つ役柄です。ちっちゃくて可愛い印象がどうしても先に立ちますが、演技力はなかなかのもの。「1789」新公主演での輝きも忘れられず、引き続き注目していきたいものです。

 あまとを殴打するライアンの大希が、今公演の新公主役です。歌がめっちゃ上手いので、コムラムビーム優先で選ばれたのでしょうか。かなりの実力者なのでとてもうれしいのですが、個人的には歌もダンスも上手な碧音斗和くん(火事で助けられる少年)も見たかった! しかし大希は間違いなく立派につとめるはず。ジェネリックたまきちみたいな貫禄も見逃せません。

 映画のジェニーがめっちゃ可愛いのですが、なこちゃんもそのまんま可憐なのが素晴らしい。なこちゃんは就任した時からまったく印象が変わらなくて、時空がゆがんでいるのかとさえ思ってしまいます。生きるフランス人形はお花様以来と確信しています。

 

【ありちゃん、憎いほどのハマり役】

――マッリ奪還のためゴーンド族の守護神がデリーに潜伏したとの情報が入り、英軍が対策を練る中、キャサリンが「彼を逮捕した者は特別捜査官に昇進させる」と宣言した。インド人でありながらイギリス警察に身を置くラーマ(ありちゃん)は、ふるさとへの大義を果たすため、その座を狙うと決意。さっそく反英集会にもぐりこみ、ラッチェを捕まえかけたが、寸前で逃げられてしまう。その時、突然、大火災が発生。取り残された少年(碧音)を、居合わせたビームとラーマが協力して助け出したことを機に、2人は互いの素性を知らぬまま、友情を深めていくのだった。

 ラーマが幼い頃、交わした父との約束。それは村人全員に銃を持たせるということ。村を襲ったイギリス軍に対し、自らが囮となりライフル1本で戦った父の思いを決して無駄にはしないと。ラーマはそのためにイギリス警察に入り込み、銃を奪うという使命を背負っていたのでした。故郷にはシータ(詩ちゃん/詩ちづる)という恋人も残して…。父を演じる朝水さん、腰からライフルを打つ姿もしびれ、イケオジ専科まっしぐらです。

 

ラーマは映画でも強烈なキャラクターで、とにかく「圧」が強いイケメンです。映画と同じのダンダダダンダンダンと不気味な登場曲で現れるのがまたカッコよくて、ありちゃんが憎いほどハマっています。体格がいいので、シャツとサスペンダー&ズボンのスタイルが似合うし、なんというかとっても悔しいですね。

 ラーマの影FIRRREには、夕渚りょうさんと鳳花るりなちゃん。ついにるりなちゃんのドヤダンスが日の目を見ます。娘役の可憐さとは無縁の、気合いの入った肩甲骨をぜひご覧ください。夕渚さんもダンサーなのに、ゆるキャラみたいな癒しが強いせいか、さりおやきさちんに隠れてるのがもどかしかったので、ピックアップがうれしい。FIRRREはインドの観音様みたいなルックスで、2人のむっちりさ加減が野性的な振付に迫力を増す。濃すぎる。しなやかで塩味なきさちん&ゆりちゃんWATERRRRとはあまりにも対照的すぎて、クセになりそう。彼らはその都度、ラーマとビームの心情に寄り添った表情をしているのにも注目です。

 大火災から少年を救ったことで生まれたビームとラーマの友情は、やがて家族のように強い絆となっていきました。映画だとかなり長い時間を割いていますが、舞台ではそこが短いのがちょっと残念。ともに秘密を持つ、クールなラーマと優しくて素直なビームの対比がこの物語の軸となって行きます。

【ナートゥに劇場大盛り上がり】

――ビームがジェニーに惹かれていることを知ったラーマは、2人が話せる機会を作る。そのおかげでジェニーからパーティに招待されたビームは、ラーマとともにスコット邸を訪れることができた。パーティの後、屋敷に招待されたビームは、どこからか聞こえるマッリの歌声を耳にする。囚われた部屋を探し出すと、泣きすがるマッリに、必ず助けに戻ると誓うが、チャンスは提督が戻る前の明日しかない。だが、決行に挑むビームの前に、瀕死のラーマが現れ……。

 今回、最も楽しみだったナートゥダンス。「RRR」を上演=ナートゥを踊るのね?と言われるくらい有名なシーンです。

琴ちゃんはシルバーのスーツに身を包んでいますが、えんじ色のスーツでバシッと決まったありちゃんみたいにカッコよくありません。おどおどしてるからか、スーツを着慣れていない人なので、全然イケてない。

そこへ、ジェニーの婚約者ジェイク役のキワミシン(暁千星)が「のろまにダンスは踊れない」と、琴ちゃんに向かって言い放ち、「タンゴ!スウィング!フラメンコ!」などと叫びながらポーズを決めるという、罰ゲームみたいな場面(違)が手に汗握る。

 ジェイクはプライドが高く、インド人をバカにしてるいけすかないヤツ。ジェニーのことが大好きで、だんだん憎めなくなってきて最後は可愛いヤツめ!となるのですが、まだ高慢な頃です。キワミですのでとにかくカッコいい。ブロンドに長身細身スーツが完璧イケメンなのに、なのに、この超ハードシーンはどうしても緊張してしまう。一刻も早く終わってほしいと祈っていると、ありちゃんの「ナートゥをご存じか」のキメセリフでダンスシーンが始まりホッとします(ひどい)。

 そういえばキワミは後半になこちゃんに引っ張られて、琴ちゃんたちに隠れ家にやってくるシーンで、毎回笑われていました。全く笑うシーンではないのに、最後の最後まで笑われていました。あんなにイケメンなのに、ファンの間ではどうしても、可愛いが勝つのでしょうか。

 そんなキワミがいとおしいです。

 映画では細切れに撮影してつないでいる激しいダンスも、舞台ではノンストップ。あまとたちと入れ替わったり、なこちゃん率いる娘役の華やかなダンスもあり、客席の手拍子もノリノリです。最後は舞台の横一列いっぱいに広がって踊り、琴ちゃんが一人残って倒れると、拍手がしばし鳴りやまないほど。久々のカタルシスが得られるシーンとなりました。

みんなと同じナートゥでも、琴ちゃんのダンスはやっぱりなんか違った! ブレないながらも頭や上半身の動きが細かいんです。『ジャガービート』の時も♪ビービッビ♪ってところの上半身がたまらなくカッコよかったですからね(お前のチェックが細かいよ)。

 【ヘビにかまれたありちゃんの色気】

 ビームが囚われたマッリと再会する場面が胸に迫ります。映画でも、なぜ一緒に帰れないのかと泣きじゃくるマッリを慰めるためにビームが歌い、彼女が気持ちをおさめるという重要なシーンですが、琴ちゃんの歌がめちゃくちゃ説得力あって泣かせます。

 マッリ救出に向かう琴ちゃんは、異様にキラキラした衣装でスペースマウンテン伊賀忍者って感じ。屋敷に忍び込むのに目立ちまくりやないかいと、観衆の度肝を抜くのがさすがトップスターです。

 そこへやってきた、へびに噛まれたラーマ。ここからがカッコイイ! ソファの上でビームの問わず語りを聞いて意識を取り戻し、毒に苦悶しながらも追おうとする様子は、映画でも個人的に大好きなシーンです。その後、またダンダダダンダンと、ラーマのテーマ曲に乗って登場するところが、制服を着つつもまだ回復しきってない微熱感とビームの顔が見れない感で、なんとなく震えてるっぽいのもたまらない。

 ありちゃんはそのあたりもちゃんと表現してて、特にボロボロになった時の色気が、つい最近までバブみが…とか言ってたとはとても思えない。赤い軍服のカッコよさは言うに及ばず、ラーマはありちゃんにとって、すごく美味しい当たり役間違いなし。ただ、修造娘を痛めつけるシーンが、修造娘の迫真の演技に助けられてる感じがするので、目的のためには狂気スイッチが入るラーマの性質を、ここでもっと出せたらさらに良くなるのではないでしょうか(マニア)。

【ビームの歌でさらっていく】

 処刑の場。さすがムチ打たれプロ琴ちゃん。リアルすぎて、いちいち一緒に体がビクッと反応してしまいます。ラーマにムチで打たれながら、警官らに殴られながらビームは歌う。この歌が民衆の心を突き動かします。子守歌もそうなのですが、あの独特の音を揺らす歌い方、なんていうんでしょうね。あんなん普通の人出来ませんよね。きっと琴ちゃんは民謡も上手いに違いない。

 この作品はいろいろ見どころがたくさんありますが、やはりこのシーンが一番核となるので、琴ちゃんの歌ありきと言っても過言ではありませんでした。

 

ラーマは常にドラマチックでカッコいい。そのため映画では、どっちが主役かと問われたら、多くの人はラーマと答えるでしょう。でも宝塚でやるとなったら、琴ちゃんが主役となったら、絶対ビームが主役なんですね。そこに異論はまったく生まれなかったと思います。明るくて優しくて、仲間を大切にし、誰よりも強いが女性には弱いというギャップがカワイイ。もう琴ちゃんそのものですよね!!!(拡声器で叫ぶ)

映画のヒゲもじゃパンチ兄さんも、めっちゃかわいいんです。瞳をウルウルさせてラーマを信じ切っている様子や、無学を素直に認めているからか、よく無言でうんうんうなずくなど、ピュアなきゅんきゅんポイントがあるのですが、琴ちゃんはそのあたりもしっかり再現していました。

 初見は「どこを削除したのかまったくわからなかった」と思ったほどでした。どうやらストーリーがアップダウンするビームの処刑まではほぼ残して、そのあとをばっさりいった感じ。映画では重要な場面もまだ長時間残っていますが、ほとんどが再現不可能なアクション系なので、思い切って切るのは上手い手法だと感嘆しました。おかげで最後はなんでその武器で勝てたんか、よくわからんかったりしますが、そこはヨシとしてください!

なにより、物語に一貫して流れる「仲間を大切にする」というビームのゆるぎなき信念は、そのまま琴ちゃんの星組への思いにつながっている気がして、それもまた作品の感動をより深いものにしてくれました。

陽気なエンディングは客席降りもあり、2階席にもさりおや愛子ちゃん、天希さんらがやってきます。サービス満点で大盛り上がりの締めになったのも客席の満足度につながったことでしょう。 素晴らしい作品に出合って本当に良かったです。ファッショナブル伊賀忍者じゃなければ!(やっぱこだわってたんかい)

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