⽉組『応天の⾨』『Deep Sea -海神た
ちのカルナバル-』2 0 23年02⽉11⽇掲載
“ 知的なツンデレ”⽉城かなとが学問の神様
菅原道真となって怪事件を解決︕︖
⽉組公演、平安朝クライム『応天の⾨』-若き⽇の菅原道真の事-、『Deep
Sea -海神たちのカルナバル-』が、2⽉4⽇、宝塚⼤劇場で初⽇を迎えまし
た。原作は灰原薬⽒による⼈気コミックスで、学問の神様・菅原道真と、平成の
⾊男・在原業平がタッグを組んで、怪事件を解決していく歴史サスペンスです。
2017年には⽂化庁メディア芸術祭マンガ部⾨新⼈賞を受賞、現在も連載中の作
品であることも話題となりました。
主演の⽉組トップスター⽉城かなとさんが演じるのは、幼い頃から秀才と誉れ
⾼き菅原道真。⼈並外れた優秀さと、徹底したクールなキャラクターの中にもの
ぞく優しさの“ツンデレ”具合が⽉城さんのイメージと重なって、まるでアテガキ
のようです。道真のバディとなる業平には鳳⽉杏さん。稀代のプレイボーイ設定
がこれまたピッタリです。トップ娘役の海乃美⽉さんは、唐渡りの品を扱う店の
⼥主⼈・昭姫。きっぷのいい姉御肌が、⽉組トップコンビの雰囲気にもよく合っ
ていました。
ショーはラテングルーヴ『Deep Sea-海神たちのカルナバル-』。今年の寒
さを⼀気に吹き⾶ばす熱いショーとともに、⽉組⽣の魅⼒もフルパワーで弾けて
います。
知的なツンデレが似合う⽉城
――時は平安の始め。京の都では、⽉の⼦(ね)の⽇の夜に⻤たちが⼤路
を闊歩し、その姿を⾒たものを取り殺すという「百⻤夜⾏」が頻発してい
た。そんな夜、在原業平(鳳⽉)が⼈⽬を忍んで屋敷へ帰る途中、⾨の上
で書物を読む⾵変わりな⻘年・菅原道真(⽉城)と出会う。道真はいきな
り、業平六条の姫との逢瀬帰りであることを⾒抜き、驚かせるのだった
道真と業平の出会いのシーンが印象的です。⼤きな満⽉を背に、⾨の上で書物
を読む平安スタイルの⽉城さんの美しさはたとえようもなく美しい。プログラム
の表紙をめくったところにもこのショットが掲載されていて、感動が何度でもよ
みがえります。宝塚歌劇の平安スタイルは⾜元がブーツで現代⾵メイク。スタイ
リッシュなアレンジで、独特の雅な美しさが堪能できるのもうれしいですね。
道真は、帝の侍読をつとめる菅原是善の3男。⽂章⽣(もんじょうしょう)と
呼ばれる学⽣でしたが、凡庸な貴族の⼦弟たちとは学ぶのは無意義と、もっぱら
屋敷に引きこもって書物を読みあさっていました。あたたかな情や笑顔はなく、
ひたすらクール。原作での道真のチャームポイント(︖)は、その冷めた三⽩眼
ですが、端正なマスクの⽉城さんに冷たい演技スイッチが⼊るとカッコよさにす
ごみが増すので、再現度も抜群です。
やっかいごとには巻き込まれたくないと思いつつも、優しさをのぞかせるツン
デレ具合が⽉城さんの雰囲気によく合っています。次々と謎を明かしていく様⼦
は、まさに名探偵のようで痛快。原作での少年感を⼤⼈の⾊気に変換し、宝塚ら
しくアレンジしながら独特のキャラクターを作り上げていました。
⼀途な顔も持つ⾊男鳳⽉
在原業平は、京の治安を守る検⾮遣使(けびいし)の⻑ですが、歌⼈としても
有名です。かつ⼥性にモテモテという粋な⾊男。⽢さと男らしさが共存する鳳⽉
さんに、これぞふさわしい役柄と⾔っていいかもしれません。貴族社会でうまく
泳ぎながら⽣きてきた彼が、道真と出会ったことで、⾃らの⽣き⽅を⾒つめなお
し、やがて共に事件解決へ挑みます。年下の道真の聡明さを素直に認める潔さ
や、持ち前の頼もしさを発揮する場⾯では、鳳⽉さんの貫禄や男らしさが存分に
活きていました。
業平は無類の⼥好きで軽薄に⾒えますが、かつて藤原良房(光⽉るう)の姪・
⾼⼦(天紫珠李)と駆け落ちし、引き裂かれた過去がありました。その忘れ得ぬ
想いは今も彼の胸に深く秘められています。⾼⼦への想いがつづられる歌⼈なら
ではの場⾯も印象的です。
⾼⼦は⽗や兄から囚われの⾝とされますが、天紫さんは、閉じ込めた想いを抑
えた演技で繊細に演じています。駆け落ちした若き⽇の業平を英かおとさん、⾼
⼦を蘭世惠翔さんが踊りながら演じているのも美しい場⾯となりました。
安定感増す⾵間
――時の帝、清和帝(千海華蘭)はまだ幼く、朝廷では藤原北家の筆頭・
良房とその養嗣⼦・基経(⾵間柚乃)が権⼒を掌握しつつあった。良房は
⾼⼦を清和帝に嫁がせて権⼒をより盤⽯にしたいが、駆け落ち騒動があだ
となり、弟・良相(春海ゆう)の娘・多美⼦(花妃舞⾳)の⼊内が先に決
まったことから、⼼穏やかでいられない。そんな中、帝から「百⻤夜⾏」
について御下問を受けた業平は、多美⼦の⼊内までに事件解決を約束するののだった――
応天⾨の内では、貴族たちが激しい権⼒争いを繰り広げていました。特に良房
と基経親⼦が邪悪な空気を醸し出しています。良房演じる光⽉さんはこの公演で
退団となりました。組⻑としてあたたかく組を引っ張ってきた光⽉さんが去るの
は残念ですが、最後も渋く巧みな演技で舞台を引き締めています。
清和帝の千海さんもこの公演で退団です。個性的な役柄を得意としていました
が、上級⽣ながら13歳の帝役がまったく不⾃然でないのがさすが千海さん。究極
に愛らしく、⾼貴な難役をつとめていました。
⾵間さん演じる基経は、今公演⼀番の悪役と⾔えそうかも。⽉城さんや鳳⽉さ
んはダーク系メイクですが、⾵間さんは⽬元も⼝元も⾚系なのがよけいに恐ろし
い雰囲気です。基経は良房の実⼦ではなく、才を⾒出されて養⼦になりました。
幼い頃には道真の兄とのささやかなエピソードなどもあり、彼なりの歴史や葛藤
があったことを、⾵間さんはにじませるように演じています。ますます演技も安
定感が増してくる⾵間さん。もはや若⼿とは呼べそうにありません。
良相の⻑男・常⾏は礼華はるさんが演じています。権⼒争いに巻き込まれ、命
さえ脅かされそうな妹の多美⼦を、ひたすら守ろうとする優しい兄に胸打たれま
す。⻑⾝の礼華さんは⽴ち姿も華やかで、演技のたくましさが増してきました。
6 ⽉にはバウホール公演『⽉の燈影(ほかげ)』での主演が決まり、今後ますますの活躍が注⽬されます。
きっぷのいい姉御な海乃
――久しぶりに⼤学寮に顔を出した道真は、学友の⻑⾕雄(彩海せら)か
ら、双六で負けた借⾦の相談を持ち掛けられる。さらに業平からは「百⻤
夜⾏」事件捜査の協⼒を依頼されてしまった。道真ら⼀⾏はまず「ある⼥
が異形の⻤を匿っている」と噂の唐渡りの品を扱う店へ向かう。そこには
流⾏り病の後遺症に苦しむ貧しい⼥たちをかくまう⼥主⼈・昭姫(海乃)
がいた。⻤など空想の産物だと⾔い放つ道真は、昭姫にも捜査の協⼒を依
頼。こうして⻤の正体を暴く⼤作戦が始まった――
海乃さん演じる昭姫は、唐から取り寄せた品を扱う店の妖艶な⼥主⼈です。道
真のことを「⾷えないぼっちゃん」と呼ぶ、きっぷのいい姉御ですが、弱いもの
を助ける、⼼やさしい⼤⼈の⼥性でもありました。
今回、ラブロマンスはありませんが、確かな実⼒で⽉城さんをしっかりサポー
トする海乃さんらしさが活かされ、⽉組トップコンビの雰囲気にあった役柄とも
いえるでしょう。原作では道真と業平のバディですが、宝塚版では道真と昭姫の
バディに近いかもしれません。
⻑⾕雄は調⼦がよくておっちょこちょい。すぐにサイコロですってしまうな
ど、ダメ男なのですが、可愛くて憎めません。演じる彩海さんは、明るくてよく
笑う素顔の良さを⽣かしながら、元気いっぱい演じています。
いつも⼀緒に登場する⽩梅は、彩みちるさんが演じています。明るい⾊の髪に
⾊⽩のルックスは漫画の再現度も⾼く、とてもキュート。
そして忘れてはならないのが、昭姫の店の⽤⼼棒・⼤拙演じる⼤楠てらさんで
す。斬新なルックスとそのたくましさ、ぜひご注⽬ください︕
――道真の指⽰のもと、昭姫をはじめ店の者たち、⻑⾕雄、⽩梅らが協⼒
して、ついに⻤の正体が判明する。しかし、それを聞いた業平は、権⼒の
中枢に近づく危険を察知し、捜査はこれで打ちきりだと⾔い、2⼈は決別し
てしまう。業平も所詮はほかの貴族と同じなのかと憤る道真。道真が貴族
に対して深い憎しみを覚えるのはなぜなのか。そこには今も⼼に重くのし
かかる過去があるからだった――
序盤は⼈間関係が複雑でやや⼾惑いますが、徐々にこなれて、キャラクターの
個性もしっかり味わえます。原作を読まなくても楽しめる作品ではないでしょう
か。連載中の作品なので、余韻を残しながらの終わり⽅も粋でした。
ラテンの熱さが寒さ吹き⾶ばす
2幕は、ラテン グルーヴ『Deep Sea -海神たちのカルナバル-』。
⽉城さんの「ダイブ︕」という⾔葉を合図に、チョンパで銀橋にスターが並ぶ
オープニングに思わず⼼の中で歓声が上がります。両⼿両⾜に豪華なフリルが何段もついたおなじみラテンの⾐装で、これ以上ない華やかさの舞台に、真冬の寒
さなんてあっという間に吹き⾶んでいきそうでした。
⾵間さんの歌をバックに、⽉城さんと美⼥に扮した鳳⽉さんのデュエットダン
スが⾒逃せません。3⼈の⾐装の⾐装もグリーンに統⼀され、アダルトな⽉組ら
しいシーンです。鳳⽉さんはロングスカートかと思いきや、実は⼤胆なスリット
が⼊っていて、お約束の美脚が時折のぞくと思わず感動してしまいそう。
礼華さん彩海さん中⼼の若⼿スターたちによる弾けるダンスシーンは、キレキ
レ具合がみどころ。
⽉城さんと海乃さんのデュエットダンスはアダルトなタンゴ。⿊ベースの⾐装
で、途中、銀橋に来ての⼤胆な演出があり、愛憎からむ異⾊な内容が新鮮でし
た。
今回のエトワールは、桃歌雪さん、天愛るりあさん、⽩河りりさん、きよら⽻
⿓さん、咲彩いちごさんが役替わりで⾏われます。エトワールはショーのパレー
ドを締めくくる花形。歌の得意な娘役さんがたくさんチャンスを与えられるのは
素晴らしいことですね。
平安歴史サスペンスと楽しく勢いのあるラテンショーで、体の中からポカポカ
温まり、ひととき冬の寒さもわすれることまちがいなしの公演でした。
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