【良くも悪くもないのは、大劇場公演ではOK】
「スカーレットピンパーネル」という飛び道具が終わって、紅さんの真価が問われる大劇場オリジナル作品が始まりました。歌とダンスの実力ないない尽くしで、果たして大劇場のセンターをもたせることができるのか? 琴ちゃんの立場もありますので、じっくりと感想を書いてみたいと思います。
舞台稽古が終わって、最初の感想は「フツー」。
憤慨するほど悪くもないし、特に感動することもない。ただひたすら続く四万十川の流れのように、目の前を通り過ぎた感じでした。でも嫌な気持ちになるキャラクターもいないし、面白い演出効果もあった。ファンの人ならときめいたり感動したりするだろうから、悪いところがないという点だけでも、大劇場公演的にはかなり成功していると思いました。
【喫茶店のBGMのごとく】
オープニングは、なんと舞台の上に客席があって、出演者がお客さんとしてビッシリ座って客席側にあるスクリーンを見ている設定です。笑ったり驚いたり、一人ひとりが映画に反応しているのを一度に見られるのですが、これが面白い!なんて斬新な演出なのかと、もうこれだけで平均点を超えました。タカラジェンヌも舞台の上で、こんな客席をいつも見てるのね。
その後は中学生でも容易に先が読めるストーリーです。
・ポコ監督の新作が奇をてらいすぎて不評を買い、映画会社がピンチに。
・助監督の紅が、無声映画から音付きの映画を撮らせてほしいと進言
・友達の作家琴ちゃんに脚本を書いてもらって、主演女優は無名のコーラスガールキサキを抜擢して大成功。
・しかしナチスかちゃがキサキに横恋慕して、映画会社も乗っ取り、自分の思い通りにしようとする。
・紅が愛の大切さをキサキにセリフで代弁させたのち、2人でハリウッドに逃げる。
だいたいこんな感じです。
紅さんは、スーツをビシッときこなして、見た目のカッコよさは十分! プログラムをみても本当に二枚目で、舞台上でもそのまんま。顔が小さくて少女漫画に出てくる人みたいでした。今回は、おふざけはナシ。アドリブも入れられません。つまり、紅さんの得意技を封じ込め、素で勝負となってしまいました。
そうなると、たちまちアピールポイントがなくなってしまったのです。
ストーリーがあっさりしてるだけに、トップがソロ場面で自身の力量を使ってグワーッと盛り上げないといけません。基本的に宝塚の作品は、歴代そうして、トップの力技で謎の感動を巻き起こし、客に「名作かもしれない」という錯覚を抱かせてナンボな勝負で100年を過ごしてきました。
しかし紅さんは肝心の実力がないので、場面を盛り上げることができない。たくさん歌ってるのに印象に残らない。まるで喫茶店で流れてるBGMのようでした。これなら、右翼の街宣カーみたいに強引に耳に入ってくるちぎちゃんの方が、ある意味、トップスターとしては正解かもしれません。
【たぶん目玉シーンはここだと思う】
キサキは相変わらずひどいです。途中から完全にマルグリットになっていたのには笑いました。かちゃに襲われるあたりから、言ってる内容もセリフ回しもまったく一緒なことにご注目ください。
友が言ってましたが「紅さんを小ばかにしてるよね」という指摘がぴったりでした。「相手役をリスペクトして恋する」という、トップ娘役の必要最低条件を完全放棄してるのが、見ていて非常につらいです。
トップの相手役って、ものすごく重要です。男役を生かすも殺すも娘役次第、といっても過言ではないからです。紅さんは、くらっちくらい実力があって、一歩下がっていとおしそうに見上げてくれる子を付けた方が絶対に良かった。今は2人で逆方向に相乗効果が働いてるような気がしてなりません。
今回、たぶんここが一番目玉のシーンだよね、というところがあるんです。メイク室の鏡に向かって、紅さんがキサキに顔を寄せてメイク指導するシーンで、最後に「手が震えているね」と紅さんが言います。もちろんキサキはふるえてなどいませんが、ここ、みゆちゃんか風ちゃんなら、もうドッキドキで、見てるこっちが気絶しそうなほど赤面&ときめきシーンになったこと間違いなかったでしょう。
あと、紅さんが、幼い頃から映画が好きだったと語るシーンもたぶん盛り上がるところです。不足分は各自想像力で補ってください。
さて、愛する琴ちゃんです。ポスターをみたら、少年探偵団みたいで不安MAXでしたが、実際は普通に紅さんの友達でホッとしました。紅さんとの対等感を高めようとしているのでしょうか。ショーブランでは普通だったのに、なぜか今回は轟・明日海・美弥並みのシークレットブーツを着用していました。一応、背の高さはさほど変わらず成功していましたが、紅さんの顔が小さすぎて、等身バランスが良すぎるため、琴ちゃんだってそこまでひどくはないのに、なんかやっぱりバランス難に見えてしまいました。でも実物は顔、めちゃ小さいんですよ。私は琴ちゃんがスタイル悪いとか、背が低すぎるとか、思ったことは一切ありません。断じて気にしていません(いつもはここで「気にしとるやんけ!」とツッコミ入れますが、今回はナシ)。
役的にはすごくどうでもいい感じで、琴ちゃんなら3日練習したら完璧だろうって感じのエコ運転です。ウエイトレスのくらっちに対し「いっひりーべでぃっひ~」などとロマンチックでしっとりした歌をエエ声で唐突に歌ってました。見せ所もないし「とりあえず1曲歌わせとけ感」バリバリでしたが、謎の感動を呼びました。
ドイツ人らしく、髪を金髪に染めてくりくりパーマをかけて、それはいいのですが、また梯子みたいな「星組もみあげ」を描いています。欧米人パーマだろうが、ロマンチックショーだろうがおかまいなし。あれ一体なんなんでしょうか? 柚希礼音教祖への忠誠を誓う戒律かなんか? 琴ちゃんは好きだけど、礼音さまを超える気はないんかと、そこだけいっつもイライラします。
【スクリーンの映画が一番感動した件】
かいちゃんはプロデューサー。なんかいろいろ応援してくれてるけど、この人も別にどうでもいい感じです。髭を生やして、スリーピースのスーツ姿が超絶カッコいいのなんの!!!しびれてしまいますが、歌いだしたらズルーっと吉本ばりにずっこけそうになるので、歌いだす際には手すりでふんばり推奨です。
せおっちは若手俳優。声や歌が自慢らしいのですが、一節歌って、琴ちゃんが「いい声だな」とほめるのはやり過ぎではないか。でもせおっちは完全に「好青年キャラクター」として、実力云々関係なしに今後も愛されていくに違いありません。
せおっちと同等だったのに、もう落ちて行ったしどりゅー。最近「しどりゅー&まなつちゃん」が可愛くて仕方ないんです。2人をずっと眺めていたいです。
まおゆうきさんとポコちゃんの並びも、ポコちゃんが一歩リードしました。まおゆうきさんは、雪の大ちゃん枠でもっと使ってほしいです。
かちゃは専科から出演で気の毒な立場ですが、ナチスの悪役は似合ってたしカッコよかったし、組子を脅かすこともありませんでした。
今回、一番盛り上がるシーンが、夏樹れいさんのところです。黒人スター役ですが、ものすごい似合っててカッコいいの! 最後が女役だなんてもったいないと思いましたが、ここまでカッコよくてインパクトあるなら良かったかもしれません。
そんなわけで、ストーリーはさら~っと流れ流れて、紅さんの歌も演技もよどみなく、動脈硬化ゼロ的サラサラ血液で終わってました。
巨大スクリーンに製作した映画が流れるのですが、せおっちが花売り娘キサキから花を買うシーンで、それがものすごく素敵なんです。せおっちの上品な若紳士と、キサキが最上級にかわいらしくて、ものすっごいきゅーんとなりました。全編通してこのシーンに一番感動しました(爆)。
舞台稽古ののち、初日も見ましたが、琴ちゃんが出てる場面以外は速攻寝てしまいました。そんな感じです。
ショーは明るくて、全体的にすごく好きかも。寝るシーンがありません。
ただ、オープニングの衣装の色はイマイチでした。なんで肌色やねん。スカートのすそなどに丸いカラフルな花がついててすっごく可愛いのに、ベースが肌色。レイザーラモンRGが吉本陸上大会100m走で着る裸着ぐるみみたいです(誰もわかりません)。あれをパステルなピンクや水色や黄緑にしたら、どんなにかステキだったでしょう。残念です。
ショーでも相変わらず紅さんは地味でした。
なんていうのかなあ…。登場した時にバーーーーン!オレがトップだ!どうじゃあああああ!みたいな、絶対的オーラがないんです。ファンの人なら見えるのかなあ。
その後たくさんの人たちが出てきて歌ったりしますが、基本的に星組のメインメンバーのみなさんは、声が口元周辺でもごもごいってて何言ってんのか聞こえない。そこへ琴ちゃんが「ブーケドたからづか~」と歌いだしたら、「ハッ!」と目が醒める感じ。「そうそう、私、宝塚のショーを見てるんだった!」と思い出すみたいな(爆)
そんなプロローグが終わったら、次は琴ちゃんのシーンです。旅人みたいな装いで透き通った声でさわやかに歌って銀橋を渡り、プリティな妖精ちゃんたちと戯れる優しいシーンです。とってもきれいで、可愛いじゅりちゃんとの絡みもあります。ぱっと見、なんてことはないシーンなのですが、噛めば噛むほどはまりそう。はっきり言ってめちゃめちゃ好きです。こういうシーンをやりこなしてこそ宝塚男役。頑張れ、琴ちゃん!
そしてモンパリシリーズ。純粋に楽しい。
いろんなシーンが連続しますが、ここではかいちゃんのダンスが見ものです。はるこさんと愛みせれなさんを従え、むちゃくちゃカッコよく踊るのはいいのですが、長すぎてだんだんぼろが出てきます。途中で指を鳴らしながらリズムを取るのが、あまりにも合ってなくて「これはヤバい…」という予感に震えて来たらそこからは完全に「蛇足」。もはや「早く音楽をとめてあげてーー」とリングにタオルを投げ入れたくなりました。
琴ちゃん最高なシーンもあります。「ラブ&ドリーム」でみっちゃんも歌った「ブギウギ」、キャー―――ステキ――――!!!こういう軽快なリズムを全身で楽しみながら刻めるって、簡単そうで難しいんですよ。さすがです。絶賛御免。
その後、紅さんで「夜霧のモンマルトル」。シルクハットにステッキの紳士たちと淑女たちに囲まれる図が、とってもモンマルトルできれいです。ただ右に左に揺れるだけでも全然OK! 紅さんの正しい使い方を酒井先生もよくわかっています。
中詰めは「セ・マニフィーク」。大御所ツレさまの持ち歌ですが、「ラブ&ドリーム」でみっさまが衝撃のリバイバルを披露し、大好評を博した(個人的に)こだわりの曲! なのに振付がぬるい。ぬるすぎます。私でも踊れそう。
全体的に、たるいセ・マニフィークに不満が残りました。
せおっち・しどりゅー・ぴーの3人銀橋渡りも良かったです。
【いいのか?スパニッシュ対決】
そして問題のスパニッシュ対決。
最初に紅さんとカチャ・かいちゃんで、酒場ダンスを踊りますが、技巧が激しく問われるスパニッシュで……これは……と複雑な気持ちで見ていましたら、途中から琴ちゃんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
舞台の中央から白い衣装でジャジャジャーンと登場するのが、どこのトップスターやねんですし、そのあと、おりゃああああああああとキレッキレに踊りまくるのがもう震えるほどにカッコよくて、いいの?ほんとにいいの?と不安にさえなってきます。王道らしく、キサキをめぐって紅さんと対決し、琴ちゃんが負けるのですが、「いや、今までの動きを見てたらそんなわけないやろ」みたいな日本国中が飛びツッコミしそうなシーンを展開。敗れて去っていく琴ちゃんをキサキが追っていっちゃったので、孤独になった紅さんは一人で歌うのですが、とても長いです。。。でもたぶん見どころです。
フィナーレは、スターのいない男女群舞。それもいいのですが、メインディッシュなしの料理みたいで正直よろしくない。
今回、男役群舞も、黒燕尾もないんです。紅さんが踊れないから仕方ないとはいえ、まったくないのはメリハリがなさすぎです。真ん中でちょっと歌って揺れておけば、あとは琴ちゃんに芯を任せればいいわけだし、最後のデュエットダンスも、たとえ稼働範囲半径1mであっても、頑張って踊ってほしいです。今回のデュエットダンスは、後ろに3組のペアを従えてるので、舞台上がやかましくて、そのおかげでいろいろごまかせたものの、なんだか物足りないことこの上ない。
「いっそやらせない選択」は『神々の土地』でうららちゃんに一切歌わせない作戦にあるように潔くもあるのですが、トップに関しては、定番の排除は全体的な満足度を左右するので、避けてほしいなあ。
琴ちゃんはくらっちと踊ります。阿弖流為からずっと相手役がくらっちですが、安定した実力と、琴ちゃんをいとおしそうに見上げてくれるので、とてもいい!
琴ちゃんは包容力がまだまだこれからです。オラオラの激しいダンスはもう完成していますので、次は宝塚男役らしい、ひらひらゴージャス衣装を着こなし、娘役を余裕ある笑顔で包み込んで、いくらいとおしそうに見上げられても「そうか、愛いヤツじゃのう」みたいな、軽くあしらう優しさと包容力を身に着けてほしいです。
今でも十分やってるんですよ、やってるんですが、やはり体から湧き出る感じはまだまだだなあと思います。トップになるのはどんなに早くても再来年。そのころには、どれだけ大人になってるか、今から楽しみでなりません。
【小さくまとまってほしくないぜ】
なぜか「ショーで誰も歌ってない」という印象が残りました。退団する歌手・夏樹さんがなんで一節も歌わないの? このたび娘役に転向した音咲いつきさんも芝居・ショーともに一言も発していません。えりちゃんも華鳥さんも歌ってないし、なんかもう宝の持ち腐れというか、もっと若手使おうよ。
全体的には良いと思ったのですが、こうして振り返るとやっぱり物足りなかったみたいですね。
そして紅さんが小さくまとまっちゃってつまらない。もっと「ルパン三世」みたいなみんなが知ってるキャラクターものをやらせて、「ひでえええええ、吉本かよ!!!」とか、これまでみたいにボロクソ言わせてよ~。
そんな感じの星組公演でした。ショーにおける琴ちゃんの妖精・ブギウギ・スパニッシュはめっちゃいいので、また見たいけど、合計時間10分もないんじゃね?
うーん……(笑)
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